一生噛める元気な歯

  • Home   >  
  • ブログ   >  
  • 一生噛める元気な歯

一生噛める元気な歯

「虫歯がありますね」と言うと、患者さんはみんなその日に治してもらえるものと思っています。でも、「しばらく様子をみましょう」と言うと、「えっ、虫歯があるなら今日治して!すぐに治して!と懇願されることもしばしばです。

患者さんにとってはとても不安なことだと思いますが、実は、虫歯は進行がんのように急激に進行するものではないので、急いで治療する必要はありません。

とくに穴のあいていない白濁の初期虫歯に関しては、削って歯を傷つけるほうがもったいないと考えています。どうしてかというと、この段階の虫歯なら飲食習慣を改善するだけで十分、健康な歯に戻すことができるからです。それ以外で穴があいってしまった虫歯は残念ながら元には戻りませんが、これも飲食習慣を変えれば進行は確実に止められます。

虫歯は一方的に悪くなるのではなく、「溶かす」と「治す」のバランスで進行するのです。そのため、治す力のほうが強ければ進行を遅らせることができるということがわかってきました。虫歯はもはや、見つけたらすぐ削って埋めるのではなく、じっくり観察していく時代になってきたのです。

この場合の「治す力」とは、唾液の作用をいいます。食後30分間は虫歯菌が酸を作り出し、「歯が溶ける」時間帯になります。その後、唾液が酸を中和して、「歯を治す」時間が始まるのです。とすると、虫歯が進行するのは治療うんぬんが原因ではなく、虫歯を悪化させる飲食習慣に原因があると考えられます。虫歯の進行を止めるには、まず自分がどんな飲食習慣をもっているかを見直し、改善させることが第一です。

 

「歯磨きしないと虫歯になるよ」は、これまでの歯科界が提唱していた常識です。しかし、どんなに頑張って歯磨きしても、虫歯になる人はあとを絶ちません。ですから、こう言うのです。「歯磨きしても虫歯になるよ」

虫歯は歯と歯の間や歯の溝によくできます。歯ブラシの毛先より細く狭い場所なので、物理的に清掃は困難です。それなのに歯磨きで虫歯予防って、無理だとは思いませんか?

実際給食後に歯磨きをした子と、しない子を調べた結果、虫歯の数に有意差は出ませんでした。つまり、歯磨きで虫歯予防はできないということなのです。

それよりも大切なこととして、私は唾液の効能を強く訴えてきました。唾液は食べかすなどを洗い流し、糖分で酸性に偏った口の中を中和して歯を守るほか、歯を保護する作用や溶けた歯の成分を修復する再石灰化作用など、様々な役割を持っています。ですから、初期虫歯を自然治癒させ、虫歯予防をより確実なものにしていくには、たくさんの効果をもたらす唾液を活発に働かせることが大切なのです。唾液が少ない状態はドライマウスと言われ、虫歯や歯周病などさまざまな口腔疾患にかかりやすくなることがわかっています。

だ液の分泌量は一日で1~1.5リットルともいわれており、その性質や状態は生活の中で刻々と変化していくものです。唾液というのは、大きく分けると「安静時唾液」と「刺激時唾液」の二つに区別されています。

食事中に分泌されるのが刺激時唾液です。性質はサラサラで分泌速度も速く、量も多いのが特徴ですが、一日のうちでは短い時間の分泌になります。一日の多くの時間に分泌されているのが安静時唾液で、刺激時唾液と比べて分泌量や粘度(さらさら、ネバネバの状態)が変わりやすいという性質をもっています。

食事中にでる刺激時唾液は、耳の前にある耳下腺でつくられ、上の奥歯の内側あたりから大量に分泌されます。これは食べたものに唾液をまぜ、飲み込みやすくするためと言えます。安静時唾液は舌の下側や顎の下でつくられ、舌の前歯の内側から分泌されます。ムチンという粘り気成分が多く、分泌速度も遅い特徴がありますが、これは歯や口内の粘膜表面を覆って保湿、保護するためと考えられます。

その性質を変えながら、歯や口内を守っている唾液を効率よく分泌させるため、砂糖の入っていないキシリトール100%のガムを推奨します。

歯磨きより、唾液を効率よく出すことのほうが虫歯予防につながるのです。

 

『一生噛める歯 元気な歯』参照